2020年5月号掲載

国家・企業・通貨 グローバリズムの不都合な未来

国家・企業・通貨 グローバリズムの不都合な未来 ネット書店で購入
閉じる

ネット書店へのリンクにはアフィリエイトプログラムを利用しています。

※『TOPPOINT』にお申し込みいただき「月刊誌会員」にご登録いただくと、ご利用いただけます。

※最新号以前に掲載の要約をご覧いただくには、別途「月刊誌プラス会員」のお申し込みが必要です。

著者紹介

概要

「国民国家・株式会社・中央銀行」。この3つが、現代の政治と経済の基本的な形だ。だが今、グローバリズムの広がりと経済活動のデジタル化により、3者のバランスが崩れ、社会を担う「中間層」が苦しみ、社会の亀裂が深まっている。悪循環に陥った資本主義が向かう先とは。現状と今後を、日銀出身の著者が詳しく読みとく。

要約

競争の海に落ちる国家たち

 1980年代から、世界はグローバリズムの時代に入った。それに伴い、格差が拡大し、ポピュリズムが台頭し、社会を担ってきた中間層が細った。

 その原因を明らかにすべく、国家と企業、そして通貨 ―― 現代の政治と経済の基本的なかたちについて見ていこう。

底辺への競争

 グローバリズムは、企業と国家との力関係を根底から変えた。

 かつて、国家は企業の支配者だった。しかし、企業が活動する国を自由に選べるようになると事情は変わる。国家は、多くの企業を域内に呼び込もうと、税率を引き下げる競争、すなわち「底辺への競争」を始めざるを得なくなるからだ。

 法人税率は、十数年ほど前までは、日本や米国では約40%、ドイツだと50%はあった。ところが、法人税の引き下げ競争が世界的に拡散し、今では20%台が「世界標準」となっている。

企業にも個人にも媚を売る国家

 個人所得税も、同様の事態が進んでいる。

 1979年、英国にサッチャー首相が登場し、所得税の最高税率の引き下げを行う。米国ではロナルド・レーガンが81年に大統領に就任し、猛烈な勢いで所得税最高税率の引き下げを開始した。

 サッチャーやレーガンの政策は「新自由主義」という名で世界に波及した。その結果、グローバル企業の経営者や投資家などの富者にとっては、国境の壁などないも同然になった。すると彼らは、所得税率が低い国を探して移動するようになる。

のしかかる重荷とすり抜けるテクニック

 では、国家は誰が支えているのか。税収という観点から見てみよう。

 まず、法人税については、法人税率そのものは決して低くない。だが、実際の税収は大きくない。それは、法人税に実務的な抜け道が多いからだ。例えばアップルは、アイルランドとオランダとの国際的な課税調整制度を使うことで、実質的な法人税負担を2%ほどに抑えている。