2007年4月号掲載

日本人の死に時 そんなに長生きしたいですか

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著者紹介

概要

「死に時」をわきまえることで、豊かな老後を送り、泰然と死を迎えることができると主張する著者が、過酷な老いの現実や、介護現場の問題点、延命医療の実態などを明らかにする。その上で、自分の死に時を見極め、早めに今を充実させるような生き方を提案する。在宅医療専門のクリニックに勤め、多くの死を見つめてきた医師による、“長生き”へのアンチテーゼ。

要約

長生きは苦しいらしい

 これまでの医療は、命を延ばすことを目的としてきた。おかげで日本人の平均寿命は、男女とも世界のトップレベルを維持している。

 しかし一方で、寝たきりや認知症の老人は増え、その数は合わせて400万人に迫る勢いである。

 医療は、とにかく延命すればいいという方針の裏で、言葉は悪いが「中途半端に助かってしまう人」を創り出してきたのではないだろうか。その結果が、今の介護危機ともいえる状況である。

 人間の身体は、機械のようにどこまでも性能をアップするわけにはいかない。ほど良いところがあるはずだ。その発想からいけば、現代の医療はやや進みすぎである。進めるばかりではなく、別の方向を探ったり、時には一部を棄てることもまた、人間の知恵ではないだろうか。

老人の「死にたい願望」

 ある時、老人デイケアを利用する時江さん(88歳)が、急に胸の苦しみを訴えた。急いで診察室に運び、心電図をとった。幸い、発作はすぐにおさまり、心電図にも特に異常はなかった。

 そのことを告げると、時江さんが心底落胆したように言った。「ほんなら、まだ死ねませんな」。

 「そんなこと言わないで。生きていたらまたいいこともあるでしょう」

 慰めのつもりで言うと、時江さんは声を荒げた。

 このように、つらい長生きをしている老人の中には、早く死にたいと思っている人が少なくない。

 新聞などでは、老人が死にたいと思うのは、そう感じさせる社会に問題があるというような意見をよく目にする。確かに福祉や介護の分野で、改善すべき点はたくさんある。しかし、改善が進めば老人の「死にたい願望」は解決するのか。